こちらもポール・ロブスンのイギリス時代の作品。『Borderline / 日本未公開 (1930)』同様に、ロブスンの意思がハッキリと伝わる良作。
南ウェールズの小さな炭鉱町が舞台。1938年の事。デビット(ポール・ロブスン)は、靴がボロボロになるまで仕事を探し歩いていた。列車の音を聞き、その貨物列車に飛び乗るデビット。そこにはやはり仕事のないオジサンが居た。2人は小さな炭鉱の町にたどり着いた。ウェールズ伝統のアイステズボッドという祭りが迫っていた。その町の炭鉱で働く男達もそれを楽しみにし、歌を練習していた。外からその歌声を聴いたデビットは、自分も自慢の歌を披露する。その外からのデビットの歌声に興奮したのが、炭鉱場でも頼りになる指揮者のディック・ペリー(エドワード・チャップマン)だった。一緒に歌って欲しいと、貧しいのに自分の家にデビットを住まわせ、炭鉱の仕事まで用意した。2人は仲を育む。アイステズボッド当日、町には炭鉱場からホーンが鳴り響くのを聞いた。それは炭鉱場で事故があったという事。アイステズボッドの用意で活気付いていた町だったが、一気に沈黙する。ディックの息子で同じく炭鉱で働き、美しい娘と結婚を約束していたエムリン(サイモン・ラック)は、急いで現場に向かうが、父とデビットの姿が無かった。そして火の中から、デビットがディックを抱えて戻ってきたが...
イギリス版『青春の門』?いや、『フラガール』??とは言え、それよりも随分と前の1940年の映画です。こちらもロブスンがイギリス在住時代に作った作品。ロブスンは、炭鉱の人々に希望を!という事で作られた。なんでも、炭鉱の人々はこの映画を見てロブスンに非常に感謝したという。そして実際にアイステズボッドにも出演。しかしパスポートを取り上げられていた時代なので、電話で出演して歌ったとの事。それでも南ウェールズの炭鉱協会から感謝の手紙も届いたそう。まあそういう話を聞くと、本当に彼は自分の信条と共に生きて行動していたのが分かるのだ。
ブラックムービー専門の学者であるドナルド・ボーグルは、この映画でのロブスンの事を「アンダーカバー・黒人執事」と書いていた。確かに、白人を助ける役ではあるが、この映画では不思議な程に「黒人」という事が語られていない。ロブスンが演じたデビットという役は、別に他の歌の上手い白人俳優でも全然成り立つ。だから逆に人間的。更に言えば、デビットが白人で炭鉱の人々が黒人でも、嫌な感じはしない。そういう事なんだと思います。
次に書くことになる『Jericho / 日本未公開 (1937)』という映画のラストでも、この映画のラストと同じようになるようになる事を望んだというロブスン。彼は白人を助ける事で同等と見なされたかったんじゃないかと思う。
ブラックムービー初のヒーローなのだ!彼がそれを望み実現した映画なのだ。
(5点満点:7/11/14:DVDにて鑑賞)