去年、ロサンジェルスでクリストファー・ドーナーという人が一人ゲリラしたのを覚えていますか?元軍人で、元々なりたかった警官になった。けれど、その警察は腐敗しきっていて、ドーナーは勤務中での過ちを全てドナーのせいにされた。幾ら言い訳をしても聞いてもらえず、結果ドーナーだけの過ちとなり公正には裁いて貰えなかったと感じ、それが恨みとなって、裁判官の娘夫婦や警察官を次々と殺していった男。結局は、山奥の方に逃げ込み、小屋に立てこもりそこで囲まれた警察官達に殺された。彼はマニフェストまで書いており、映画好きだった事が伺える。このニュースに黒人の人々は密かに逃げ切れ!と思っていた人も少なくない。ツイッターでは、ドーナーの事を「ランブロ(Rambro)」と呼んでいた。一人で戦ったランボーとブラザーを掛け合わせた言葉。なんで黒人の人々は犯罪者であるドーナーに対してそう感じてしまったかというと...「Sweet Sweetback's Baadasssss Song / スウィート・スウィートバック (1971)」のラストでスウィートバックがメキシコに逃げ切って黒人観客が狂喜したのと同じ理由だ。マニフェストを読んだ黒人は、実際にドーナーが公正に裁かれていないのを痛い程理解し、同情したからだ。
この映画はそのドーナーが起こした事件に似ているため、急遽劇場公開されるという噂だったが、実際にはビデオ・オン・デマンドとDVDにて発売された。しかも「42 / 42〜世界を変えた男〜 (2013)」が公開されたばかりで注目を集めるチャドウィック・ボーズマンが主演。またとないタイミング。ボーズマンは、イラク戦争帰還兵ドレイクを演じている。しかも優秀な兵士だった。しかし今はポートランドで夜中のタクシー運転手。定住地を持たず、モーテルを転々としている。ドレイクと同じ帰還兵が通うカウンセリング(しかもカウンセラーはビリー・ゼイン!)に行くも、ただ椅子に座っているだけだった。ドレイクには触れて欲しくない記憶とトラウマがあった。そんな時にタクシーに2人組みが乗り込んでくる。仕事を頼まれたのだ。逃げ出した軍人カーター(トリー・キトルズ)が山に篭っていて、どうも彼等は狙われている。彼の存在が知れると会社としても良くない。頼んだのはプライベートな軍の請負業者だったのだ。断るドレイクだが、どうやらその逃げ出した軍人はドレイクの秘密を知っているという。逃げ出せなくなった仕事を嫌々受けるドレイクだったが...
この映画のカーターとドーナーが同じ状況。恨みを抱えている。人を殺した事でその恨みは今度倍になって誰かの恨みになるだけなのに。ドレイクはそれを戦場で知った。だから殺すという仕事から逃れたかった。けれど、カーターは恨みを募らせていた。全ては他人のせいなのだ。銃があるんだから、そいつ等を殺しちゃえば全て上手くいく。いかなかったら、自分がその銃で死ぬだけ。恨みというのは、それだけ怖いのだ。
この映画のロケ地はワシントン州とオレゴン。ブラックムービーでは珍しいロケ地。美しい山々に囲まれながら、男達が殴りあいをしなくてはならない。なんとも哀しい風景だ。
カウンセリングのミーティングのシーンには、本物の元軍人が出演している。そして「くそ食らえだ!」と率直な意見を吐き出している。なんとも胸が締め付けられる思いだ。
実はうちの夫が仕事の関係で何度もクリストファー・ドーナーと接している。普通の男だったよと言っていた。普通の男がキレた時、それが一番怖いんだよね。
(4.5点/5点満点中:2/22/14:DVDにて鑑賞)