PBSのインディペンデントレンズの一つとして放映されたドキュメンタリー。タイトル通りにソウルフードについて語られている。そしてタイトルのソウルフード・ジャンキーとは私の事である。初めて義母に会う時に、私が日本人なので、義母は「彼女は私たちのソウルフードを受け付けないんじゃないかしら?何を作ってあげればいいの?」と最初心配してくれたらしい。夫は電話口で「大丈夫!大丈夫!彼女、チットリンが好きな位だから!!」と笑っていた。最近は黒人でも嫌っているチットリンが私の好物なのである。しかし、その臭いから最近では余り作らないらしい。残念である。
この映画を作ったバイロン・ハートの父親ジャッキーもソウルフードが大好き。小さかった頃のバイロンでも、父親がどんどんデカくなっていくのに「死んじゃうんじゃないか?」と心配したという。バイロン自体は、フットボール選手でもあったので、カロリーは人より消化されるが、それでも食には気を使っていたらしい。実際に父親が膵臓がんで亡くなった。黒人が膵臓の病気で亡くなってしまう確率は、他の人種よりも50%から90%と高い。何がそれの原因なのだろう?と父親が亡くなってから色々と調べてみたら、ソウルフードが原因かもしれないと思い、このドキュメンタリーを作った。
そしてバイロンは奴隷時代の食生活まで遡る。奴隷にはまともな食事が行き渡らず、粗末な物を少量食べていたと言われている。しかし栄養のエキスパートは「奴隷の労働は過酷で、カロリーを相当必要としていた。だから実際に言い伝えられているよりも食べていた筈。じゃないともたない」と話していた。奴隷の人達はちゃんと自分達が食べる分もしっかり栽培していたという。中々面白い。そしてバイロンは深南部ミシシッピー州ジャクソンに向かう。そこで大学のフットボールが行われている際に、会場外で行われるテイルゲート(BBQ)に行ってみる。黒人の人達は「食べていけ、食べていけ!」と熱くバイロンを歓迎する。そこで作っていたのが「ジャンク・ポット」。大きな鍋にコーン、豚足、豚の耳、そして七面鳥の首を煮込んだ物。バイロンは豚肉を避けている為に、コーンでごまかそうとするが、そんな事知らない黒人のお兄ちゃんは「ほら」と豚の肉を食べさせようとする。困ったバイロンだが食べてしまい「やっぱり美味しい」と。そのやりとりが最高に面白かった。しかも黒人のお兄ちゃん達、みんな訛り過ぎ。でもいい奴等。ちなみにミシシッピーは全米一の肥満州。お兄ちゃん達もみんな良い体格。そのミシシッピーで古くからレストランPeachesを経営している女性の話も面白かった。公民権運動のちょっと前から経営していて、メドガー・エバースやフリーダムライダースの人達が来ていた。そしてジャクソンで公民権運動の活動が行われると、その女性はレストランを経営するのにも不十分な程の食料だったにも関わらず、若い運動家達の為に100個のサンドイッチを用意した事もあるという。そして通りで行進があって、警察に暴力を振るわれている女性達を店で匿った事もある。
バイロンは色々とソウルフードを探った結果、ソウルフードだけが父の病気の原因ではないという結論に達する。確かに一因ではあるかもしれないが、最近ではあまり料理に時間を掛けなくなり、ファーストフードもその一因、そして黒人コミュニティでは新鮮な野菜を手に入れるのが難しいのもその原因ではないか?という事だった。
やっぱりソウルフードは愛情である。去年のクリスマスに義母は、余り作らないと言っていたチットリンを作って待っていてくれたのである。若い子はみんな「臭いよー、何で作ったのー?田舎過ぎる!」と義母は責められていたが、そのチットリンを私と義母で見事に食べ尽くした。そしてうちの子供、すなわち彼女にとっての孫が好きなキャットフィッシュ(ナマズ)のフライを毎回用意してくれている。あれを見た時に愛だと感じた。実は義母、シングルマザーでバリバリに仕事をしていて、しかも近くに義祖母が居たため、余り料理はしてこなかった為に得意じゃない。それでもジャガイモをまな板無しで見事に切っていく様に感動した。でもね、義母の料理最高に美味しいんだよ!レストランじゃ絶対に味わえない美味さです!!私はそのソウルフードの美味しさそのもののジャンキーでもあるけど、作る人の愛のジャンキーだったんですね。
(4.75点/5点満点中:TV放映にて鑑賞)