マリ出身のスレイマン・シセ監督がカンヌ映画祭で審査員賞に輝いた作品。マリで生まれ育ち、モスクワにて映画と哲学を学んだ。ロシアに渡って映画を学んだという点で、Ousmane Sembene (ウスマン・センベーヌ)と被る。実際に「アフリカ映画の父」と言われたウスマン・センベーヌと同じく政治的な映画作りを得意としていた。シセ監督が制作の1980年の「Baara」と1983年の「Finye」は余りにも政治的過ぎて、政府側とは緊張感に包まれた。監督は後に「この映画は(政治的な部分を)軽くするか、全くタイプの違う映画を作る必要があった」と語っている。なので、やはり自然と「ウスマン・センベーヌの後継者」という声が上がったのがシセ監督なのです。
この映画の主人公ニャナンコロは魔術の力を持っていた。その力を危惧した父は、息子を殺そうとしていた。母はそんなニャナンコロを抱えて逃亡。それ以来、2人は父から逃れる為に逃亡生活をしていた。しかしニャナンコロも年頃となり成長した。母は今こそ伯父に会って、父との問題を解決するべきと、息子を旅出させる。しかし、一筋縄ではいかない。様々なドラマが待っているのです。凄い設定です。圧巻です。
先に書いたように、実際にこの映画のテーマは政治的ではない。どちらかと言うとファンタジーな作品。ファンタジーというと、きっとハリウッド映画のせいで、スピード感が溢れるスペース物を想像されるでしょう。ここでのファンタジーは違うのです。確かに魔術という別空間の物が存在していますが、それがこの映画をファンタジーにしている訳じゃないんです。もう信じられない位の間と時間を割いたロングショットで、あの映画で描かれているスクリーン上の空間がファンタジーとなっていくのです。キャラクター設定だってナレーションや台詞で語っていくような単純な物じゃない。多分ね、普通の人は退屈しちゃう位の長ーーーーいショット。ああいうのはハリウッドじゃ、まず無理。スタジオ側で切っちゃう。でもシセはそれをやり、独特な空間を作り上げているのです。あの滝のシーンとか美しい。砂漠も在れば、絶壁もある。色んな姿がありますね。ラストとかもそのメッセージといい、絵といい、その美しさに感動します。
サブサハラから早くカンヌ映画祭のパルム・ドールを取る作品が出て欲しいわー。審査員賞とか特別賞ではなくてさ。一番近い位置に居るのが「A Screaming Man / 終わりなき叫び (2010)」等で知られるチャド出身のマハメット=サレー・ハルーン監督かなー。というか、カンヌではアフリカ系アメリカ人監督も全滅してますものねー。そういえば、スパイクが取れなかった事を文句言ってたわね...
所でこの映画、日本のフジサンケイグループが関係しているのでしょうか?エンディングクレジットに名前が出てきた。嗚呼、あの頃のミニシアターブームは映画ファンにとっても良かった...というか、あの頃のバブル景気は映画ファンの味方だったのかもしれません。
(4.75点/5点満点中:DVDにて鑑賞)