SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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MLK/FBI / 日本未公開 (2020) 1788本目

なぜFBIはキング牧師を執拗に追いつめたのか?『MLK/FBI』

マルコムXについての本「The Dead Are Arising: The Life of Malcolm X」を読んだら、結構な量でキング牧師、そしてキング牧師とFBIについても書かれていた。30年もの年月をかけて書かれた本ゆえ、著者はFBIファイルも読みこんでいるのが分かる。マルコムXキング牧師ともにFBIとは切っても切れない。いや、切って欲しかった。正直、マルコムの本の方が詳細に、そして色々なことが明らかになっていて面白いが、こちらもかなりの所まで迫っているので、両方併せて読んで/見て欲しい。そしてこちらは、スパイク・リー映画で編集担当で、スパイクと『4 Little Girls / 日本未公開 (1997)』を一緒に制作してアカデミー長編ドキュメンタリー作品賞にノミネートされたサム・ポラード監督によるキング牧師を執拗に追ったFBIの記録ドキュメンタリー作品。

ワシントン大行進で人々が集まり、主催者であるベイヤード・ラスティンがイントロとなるスピーチを始めた。そしてFBIのキング牧師についての夥しいファイルの数々が映し出される。その内容を知る者は「(そのファイルは)あってはならない物」と言うほど、キング牧師のプライベートな内容が記録されていたのだった。

普通にキング牧師と書いておりますが、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師のこと。キング牧師といえば、ジュニアの方ですよね。父であるシニアもかなり有名な牧師です。アメリカでも、タイトルようにMLK(Martin Luther King)で、やはりジュニアの方を指す。今だったら殆どの一般人は、キング牧師の言葉の方を信用すると思うのだけど、当時は違った。FBIのJ・エドガー・フーバーの「キング牧師が内戦を始める」という嘘を信じてしまった。そして、キング牧師ノーベル平和賞に輝いたことで、フーバーは余計にキング牧師を執拗に追う事になっていく。このノーベル平和賞キング牧師とフーバーの関係は、本作でも触れられているけれど、マルコムXの本の方が詳しい。なんでフーバーがそうなってしまったのか、よーーーく分かる。単なる私利私欲の、恨みってだけです。実に馬鹿らしい!! そして本作でも追っているキング牧師の奥様に送り付けた録音テープの時に、なぜFBIは「自殺しろ」というメモを付けたのか、それもマルコムXの本で謎が解ける。本作とマルコムX本『The Dead Are Arising』、両方がキング牧師とFBIの関係を暴いている。そして両方で知ったことは、J・エドガー・フーバーは私利私欲にまみれた人種差別者で、とんでもないクズだということ。

(4.75点:1/17/21:1788本目)
MLK/FBI / 日本未公開 (2020)

One Night in Miami / あの夜、マイアミで (2020) 1787本目

過度期にある4人の伝説をギュッと詰めた『あの夜、マイアミで』

マルコムXモハメド・アリサム・クック、ジム・ブラウンという時代を切り開いた人たちの物語なのだけど、残念ながらこの物語はフィクションである。この4人がマイアミで「あの夜」一夜を一緒に過ごした事実はない。が、4人が仲良かった事は真実。マルコムXモハメド・アリは言わずもがなだが、サム・クックモハメド・アリは特に親しい間柄だし、モハメド・アリベトナム戦争徴兵拒否した時にNBANFL選手などがアリのために立ちあがったが、その時のリーダー的存在がジム・ブラウンとカリーム・アブドゥル=ジャバー(『死亡遊戯』のアノ!)。彼ら4人の60年代の物語をギュっと「あの夜」一夜に詰め込んだドラマ。元々は、舞台。その戯曲を書いたのが、『Soul / ソウルフル・ワールド (2020)』の脚本も担当しているケンプ・パワーズで、映画化でも脚本を担当。監督は、女優レジーナ・キング。キングにとってTV映画以外では初となる長編映画監督作品。

1963年、ロンドンのウェンブリー・スタジアムカシアス・クレイ(イーライ・ゴリー)は、ヘンリー・クーパーと対戦していた。サム・クックレスリー・オドム・Jr)は、コパカバーナというクラブで白人だけの観衆の中、嫌味を言われながらも歌っていた。ジム・ブラウン(オルディス・ホッジ)は、知り合いの男性から招待されるが、その男性は悪気もなくジムに人種差別語を放つ。そしてマルコムX(キングズレー・ベン=アディル)は、妻ベティに所属しているネイション・オブ・イスラムを去ることを告げる。その4人がある日の夜、マイアミに集い...

伝説、偉大、時代の申し子... な4人の偉大で伝説的でどのように一時代を築いていったかが、本当にギュっと見事に詰まっている。サム・クックは途中であの曲を作ることがクライマックスになるのが凄く分かったし、マルコムXネイション・オブ・イスラムを去る過度期にあり変化していく途中、カシアス・クレイモハメド・アリになっていく時期で、ジム・ブラウンはNFL選手から映画俳優へとなる頃。1963年という年も、1964年に公民権法が設立されるので、公民権運動にとっても変化の時期。そういった「変化の時期」に、彼らがどのように思い、願い、そして成長を遂げていったのかが、4人の交流を描くことで見えてくる。そしてレジーナ・キングの演出も素晴らしく、舞台の映画化だと、どうも密室で話しが進む事が多いが、本作では映画らしい映画でしか出来ない奥行と空間を感じることが出来た。そして何より4人を演じた俳優たちが彼らの魂を蘇らせている。サム・クックに至っては、魂だけでなく、あの曲が持つメッセージとパワーをも蘇らせていた。

ジム・ブラウン以外は、どんなに願ってももう会うことができない。でも、素晴らしい映画だと、それすらも可能になる。映画って凄いな。改めて映画のパワーと良さを純粋に感じてしまった。

(5点満点:1/16/21:1787本目)
One Night in Miami / あの夜、マイアミで (2020)

Sweetwater / 日本未公開 (2023) 1849本目

But plenty of fellas came before Mike that could do things you've never seen in your life.


NBAレイオフも佳境ですが、どうも私個人的には盛り上がっていない。推しが負けたからというのが最大の理由だけど、それ以降は本当に観ていない。いつもならボストン戦くらいは観るのに。なんていうか、近年のNBAは主力が怪我で離脱しなかった運のあるチームが勝つ。今年だったら、ミルウォーキー・バックスのヤニス・アデトクンポやロサンゼルス・クリッパーズのカワイ・レナードやメンフィス・グリズリーズのビッグマンたちの怪我がなかったら...と思ってしまう。あと審判の贔屓が明らか過ぎでドン引きしているのもある。とはいえ、世間的には盛り上がっているのかな?(そんな気配ないけど)そんな訳で、ミルウォーキー・バックスの現役選手ボビー・ポーティスがチョイ役で出演しています。本作でも相変わらずの目力。

1990年のシカゴ、スポーツライタージム・カヴィーゼル)がタクシーに乗り込んだ。マイケル・ジョーダンが初優勝を掛けた試合に挑んでいたからだ。その道すがら、ライターはタクシードライバーから貴重な話を聞くことになる。彼の話は、1949年のニューヨークから始まる。NBAリーグ入りを果たせない黒人選手が集まって見世物のバスケットボールチーム「ハーレム・グローブトロッターズ」として、NBA優勝チームであり主力選手ジョージ・マイカンのいるミネアポリスレイカーズとマジソンスクエアガーデン(MSG)で戦っていた。その試合を熱心に観ていたのが、ニューヨーク・ニッカボッカーズ(ニックス)のコーチであるジョー・ラップチック(ジェレミー・ピヴェン)とニックスとMSGのオーナーであるネッド・アイリッシュ(ケイリー・エルウィス)だった。2人が特に熱中したのが、チームの要選手ナット・”スウィートウォーター”・クリフトン(エヴァレット・オズボーン)だった。ラップチックは、スウィートウォーターを黒人初の選手としてニックスへ迎えることに躍起になるが...

プロットで分かると思うのですが、割とセオリー通りの黒人初物語。だろうねという感じでありきたりに進んでいく。が、ハーレム・グローブトロッターズのオーナーであるエイブが、何だかんだとスウィートウォーターに気にかけて交渉していたところとかは面白かった。でもそのエイブも割りとユダヤ人のステレオタイプで描かれている。金満で商売上手。私がこの手のバイオグラフィ作品で期待するのは、鑑賞後にその人の物語をもっと知りたいと思うかということ。確かに知りたくなって色々と調べてしまった。興味はそそられる。だが、調べていくうちにやっぱり盛られていたのかもしれないと分かった。白人クラブシンガーは調べたけれど出てこなかったし、終盤でたっぷりと描かれた1950年11月1日の試合は全くでてこない。最初の試合は、11/4で相手チームのホームゲームになっている。プレシーズンなのかと調べたが、それも出てこない。「インスパイアド・バイ...」と最初に言及しているので、演出は入っているとは思っていたが、そこまで演出しなくてもとも思う。あと主演の人の感情の起伏が良く分からない時があった。

そして本作に出演のリチャード・ドレイファスは、ハリウッドの多様性重視についてこのような発言をして話題になっている。「まず真実から作品を作ること、やってみてできなければ、そこで初めてナンセンスなものに手を出せばいい」。だとしたら、真実とは異なる部分が多いこの作品はナンセンスなものなのだろうか? 本作の最後で観れる実際のスウィートウォーターの映像の中には、一番☝で掲げたセリフを受ける「私はマイケル・ジョーダンと同じことが出来る、あんなに上手くないがね」がある。本作から感じたスウィートウォーターとは少し違った印象だ。色んな経験をしてきたからこその優しさと謙虚さ、そして強さと自信を感じた。そしてNBAが75年も続いているのは、やはり本作のセリフにも出てくるジュリアス・”DR.J”・アーヴィングのエンタテイメント性溢れるダンクとか、最近だったらステフィン・カリーみたくどこからでも打つ3ポイント(これの裏話が本作に出てくるがこれも真実ではなさそうだ)とかが大きく貢献している。それらを試合の中で楽しく見せながらも、チームを勝たせることに昇華させたのがマイケル・ジョーダンという選手だ。ちなみにドレイファスの妻が本作の共同プロデューサーの1人である。

なぜ彼らはNBAで必要とされたのか? 彼らの才能は、ナンセンスなものを受け付けない、唯一無二の才能と実力があったからなのは、本作で一目瞭然だ。独特の創造性とそれが出来る能力。それが分かっただけでも、この作品は良かったのかもしれない。

(3.25点/5点満点中)
Sweetwater / 日本未公開 (2023)

Sylvie’s Love / シルヴィ~恋のメロディ~ (2020) 1786本目

描いているものは恋愛だけでない深い『シルヴィ~恋のメロディ~』

50年代のハーレムのレコード店を舞台にしたラブストーリー。と、聞いただけで、もうこれは私の好きな感じなんだろうと思っていた。しかも、相手役の男性の方がジャズミュージシャンという設定。嗚呼、もう絶対にいい感じの映画になるじゃないですか! しかも、しかも、演じるのはナムディ・アソムハ。元NFL選手で、ケリー・ワシントンの夫で、『Crown Heights / 日本未公開 (2017)』では最高の友人を演じ、そして滅茶苦茶ハンサム。しかも、しかも、しかも、テッサ・トンプソンが主役のシルヴィ役。これだけ揃ってダメになる筈がない!!! と、鼻息荒くなりました。期待が大きい分、アレな時もありますが、これは...

シルヴィ(テッサ・トンプソン)は、劇場のロビーで誰かを待っていた。サックスのジャズ・ミュージシャンであるロバート(ナムディ・アソムハ)は、レコーディングをしていた。その後、シルヴィは劇場の外を歩くロバートの姿を発見する。遡ること5年前、レコード店の軒先で求人広告が目に入ったロバートが店内に入ると、シルヴィがテレビに夢中になっていた。気を引くためにセロニアス・モンクのアルバムがどこにあるが聞くが、またすぐテレビに夢中になってしまう。ロバートはモンクのアルバムを買い、求人広告について聞くが「誰も雇っていない」とシルヴィに言われてしまう。しかし、それを聞いていたシルヴィの父(ランス・レディック)から雇われる。ちぐはぐな2人だったが次第に心を通わせていくが...

結論から書いてしまうと、期待が大きくても裏切らないタイプの作品でした! 恋愛だけでなく、時代、音楽とその時代の移り変わり、そして女性の社会進出、それによる家庭での問題、恋愛だけでない色々なサブテーマがあって、それも見事に回収しているのが素晴らしい。一番のお気に入りの部分は、女性の社会進出の部分。シルヴィが頑張っていくところが良い。そういう部分をしっかり見せていて、主となる恋愛ドラマの部分ではちゃんと観客をウットリさせてくれる。そして、シルヴィの友人が時代と共に公民権運動に傾いていたりするので、『フォレスト・ガンプ』のフォレストとジェニー、『The Butler / 大統領の執事の涙 (2013)』のセシルとルイスのように2つのアメリカ史を知ることになる。そしてロバートを通じてジャズの歴史を垣間見たりで、音楽・社会・アメリカの時代の移り変わりを知る。

恋愛ドラマだけの映画じゃないなんて簡単に書いてしまいそうになるけれど、2人の恋愛を描くには、2人が歩んだ人生そのものを描くべきであり、この2人にとって時代こそが彼らの人生であり、彼らの恋愛だった。この映画は皆が思っているよりも深い。そして遥かに美しい。

(5点満点:12/27/20:1786本目)
Sylvie’s Love / シルヴィ~恋のメロディ~ (2020)

Cocaine Bear / 日本未公開 (2023) 1846本目

"With nothin' to gain, except killin' your brain"

この映画の存在は、全米が熱中してしまうのでCM料が一番高くなるNFLスーパーボウルのCMで予告編が流れて知った。この予告CMが我が家でスーパーボウルで一番盛り上がった瞬間でした。単純明快な「コカイン・ベア」というタイトル。コカインの熊。シンプルなのに意味が分からない。流れている予告からは、史実に基づくという。余計に混乱する。なんでも、コカインが全盛期の80年代に実際に起きた事件でコカインを吸った熊がいたらしい。弁護士でありながら悪名高い麻薬密輸をしていたアンドリュー・C・ソートン・二世が、麻薬を積み過ぎで重くなった機体から、コカインをジョージア州の林に投げ捨てたところ、生息していた熊がそれを吸っており、見つかった時の身体はコカインまみれだったという(実際には少量しか吸っていないとも)。と、ここまでウィキ情報( ̄ー ̄)ニヤリ。

1985年、アンドリュー・C・ソートン・二世(マシュー・リース)は、飛行機から軽快にコカインの塊を外に投げていた。墜落していく機体から自分はパラシュートで脱出しようとする。それから... ジョージア州のチャタフーチー=オコネー国有林でハイキングをしていた結婚予定のカップルがいた。結婚準備の話をしながら幸せそうに歩いていたが、熊に遭遇してしまう。その熊は、異様にハイパーだった。一方、チャタフーチー近くに住むディー・ディー(ブルックリン・プリンス)とヘンリー(クリスチャン・コンベリー)は学校をサボって林にある滝を目指していた。そして、セントルイス麻薬王シド(レイ・リオッタ)は、大量のコカインが林に捨てられてことを知り、息子のエディ(オールデン・エアエンライク)とダヴィード(オシェア・ジャクソン・Jr)を林に送り込んだ。そして、その事件を知ったボブ刑事(アイゼイア・ウィットロック・Jr)がシドたちを逮捕できるかもと林に向かう。林には、安全を守る森林警備隊員(マーゴ・マーティンデイル)と森林を守る会のピーター(ジェシー・タイラー・ファーガソン)がいたが、最近「ドゥチャンプ・ギャング」を名乗る若者3人組に頭を悩ませていた。そして、娘のディー・ディーが学校をサボっていることを知った母(ケリー・ラッセル)が探しに向かった。そんな風変りな人々を林で待ち受けていたのが...

大事なことなので先に書いておこう。史実は最初のアンドリュー・C・ソートン・二世と舞台の林と熊の部分だけである。あとは、フィクション。「史実に基づいた」映画の中なのだが、その90%がフィクションというのも珍しい。

冒頭から最後までとても80年代。冒頭から期待通り。あのハチャメチャだけど、底抜けに明るい、というかバカな感じが最高です。監督は、女優として活躍しつつ監督もこなすエリザベス・バンクス。冒頭の曲、エンディングロールの曲、そして『ET』のオマージュとか、とてもシンプルで分かりやすい。☝のプロット説明文が長くなってしまったけれど、それだけ色んなキャラクターが登場する。しかも全員濃い。でもそれぞれキャラが立っているので、分かりにくいことはない。そういうキャラクター付けもシンプル。そう、この映画は実にシンプル。だけれど、とても笑わせてくる。ボブ刑事役のアイゼイア・ウィットロック・Jrには、「Sheeeeeee-it」という十八番セリフがあるが、今回はそれ以上にシンプルなセリフで笑わせてくれる。マーゴ・マーティンデイルのキャラクターは、すごく頑張っている、色々と。個人的には、救急のアジア人女性のメイクに笑った。80年代「ハリウッド映画の」アジア人女性ぽさがある。これだけ濃いキャラクターがたくさん出ているので、必ず気に入るキャラがいる筈だ。と、ここまでコメディ調で書いたが、ホラー映画でもある。笑えるところは沢山あるのだが、エグイところもあるので、苦手な人は気を付けて欲しい。ホラーコメディながら、80年代に愛を捧げつつ面白く風刺したり、現代を痛烈に茶化して風刺する巧さと笑いがある。

レイ・リオッタは本作が遺作の1本となってしまった。彼のお陰で主役であるクラック・ベアが途中で変化していくのが分かる。クラック・ベアが変わっていくというより、我々の気持ちが変わっていくのである。そういった面白さも意外にもある。単に史実に基づいただけでなく、想像豊かなフィクションだったからこそであろう。主役のベアを含め、濃いキャラクターたちがキメキメなのだ。

(4.25点/5点満点中)

www.cocainebear.movie

Ma Rainey's Black Bottom / マ・レイニーのブラックボトム (2020) 1785本目

本作の何がここまで人々の心を捉えるのか『マ・レイニーのブラックボトム』

やっぱり触れずには書けない。もう8か月くらい(執筆は2021年4月)経ったけれど、悲しみは消えないし、癒えることもない。日に日に悲しみが募るばかりだ。チャドウィック・ボーズマンがこの世を去ってから、彼について何度も色々な媒体で書いてきた。私はその中で一貫して、失われた損失の大きさを綴ってきたつもりだ。主演俳優として、助演俳優として、彼の存在感の大きさは、彼が映画に出演する度に大きな偉大なものとなっていたのだ。そして本作で彼は切望していたであろうアカデミー主演男優賞にノミネートされている(2021/4/21現在)。やはり、悲しみと後悔だけが募る。本作は、舞台劇作家の伝説オーガスト・ウィルソンが原作の舞台の映画化。オーガスト・ウィルソンについては、こちらを読んで欲しい。同じくオーガスト・ウィルソン原作の舞台『Fences / フェンス (2016)』の主演・監督を務めたデンゼル・ワシントンが本作のプロデューサー。そして『フェンス』助演でアカデミー助演女優賞に輝いたヴァイオラ・デイヴィスが、タイトルになっている主役マ・レイニーを演じ、今回はアカデミー主演女優賞にノミネート。監督は、舞台演出家として名をはせたジョージ・ウルフ。

1927年、レコーディングするためにマ・レイニー(ヴァイオラ・デイヴィス)は、バンド(グリン・ターマン、コールマン・ドミンゴ、マイケル・ポッツ)と共にシカゴのスタジオにいた。バンドメンバーであるトランペット担当のレヴィ(チャドウィック・ボーズマン)が遅れてやってくる。レヴィはソロを目指し、躍起だった。準備している間、レヴィとバンドメンバー、そしてマ・レイニーとも険悪な雰囲気となってしまう。

私が本作で一番驚いたところは、レヴィが神について率直に話すシーンだ。アフリカ系アメリカ人キリスト教徒の口からあのような率直な意見を聞くのはごくごく稀である。だからかなり驚いた。どんな時でも彼らにとって神が絶対的な存在だと、今までの映画や音楽で見て聴いてきた。正直、個人レベルでは聞いたことがあるが、かなり信頼関係が出来上がっている関係性でないと聞くことはない。なので公の場で聞くことはまずないであろう。言いたくても言えない場合だってある。そのような言葉を吐露するシーンは、確実に胸に強く突き刺さる。本作が舞台で上演された時にも、レヴィ役のチャールズ・S・ダットンは、トニー賞にノミネートされ、他の賞では受賞を果たしている。そして、本作の見どころはそればかりではない。マ・レイニーの太々しさにもある。差別されて当たり前の時代に、生き残るための太々しさと、堂々とした風格。いつもとは全く違うヴァイオラ・デイヴィスが見れた。

オーガスト・ウィルソンの包み隠さないペンにより、演じる役者も自然と熱がこもるのを感じ、そしてあの時代の過酷さを知った。これほどまでに率直な映画を観たことがない。人はどこか心閉じたところがあるし、率直になるのは難しい。そうでなければならない場合が多い。だから人々はこの物語に心を奪われるのである。

(5点満点:12/18/20:1785本目)
Ma Rainey's Black Bottom / マ・レイニーのブラックボトム (2020)

A Thousand and One / 日本未公開 (2023) 1845本目

"Say, "Family!"”

90年代には思い入れがある。始まってすぐの91年からブラックムービー・ルネッサンスというブームが始まり、それを実際に体験してきたからだ。70年代のブラックスプロイテーションも好きだが、自分の年齢的に実際に経験はしていない。観て、聞いて、読むくらいしかできない。だけど、90年代は違う。ただでさえ多感な時期に、それを経験した。日本で『マルコムX』が公開された時の浮足立った感じを肌で覚えている、そして92年のLAで起きたことも覚えている。当時お付き合いしていた男性が、カリフォルニアの人であの時期に里帰りしてしまい、心底心配したのを覚えている。今思えば、彼の家はロサンゼルスではなく、同じカリフォルニアでも遠いのに(東京だと秋田くらいの距離ある)... と、そんな自分の90年代をこの映画を観ながらぼんやりと思い出していた。その位、この映画は90年代そのものだ。

1994年、アイネズ(テヤナ・テイラー)はライカーズ刑務所にいた。暫くしてそこを出て、ニューヨークの街中で仕事をしようと奮闘していたが、中々上手くいかない。そして時折街中で見かける里子制度で他の家で生活している6歳になる息子テリー(アーロン・キングスリー・アデトラ)のことを気にかけていたが、どうすることも出来なかった。里親から引き取るには、仕事を探すしかない。そしてアイネズには頼れる親も家族もいなかった。そんな時にテリーが怪我で入院してしまう。他の街で仕事を探そうと、テリーにさよならを告げようとするが、それが出来ず、アイネズはテリーを連れて行ってしまう...

と、書いて、結末分かるわ! と思った貴方、ぜったーーーいに分かりませんよ。いい感じでネタバレ回避で書きましたので。最後があまりにびっくりしたというか、切なくて.... 絵に描いたように私は口に手をかざして「え!」と絶句しながらも涙が止まらなかった。そんな本作は、サンダンス映画祭のドラマ部門で大賞のグランプリを受賞。でも冒頭からタイラー・ペリーぽい街の航空映像から始まって、「あらあら、最近ありがちな...」と思ってしまっていたのですが、他とは違ってこれにも訳がある。ニューヨークのジェントリケーションの速さを、それで知っていくことになるので、後々利いてくる映像なのです。息子のテリー役が、『ムーンライト』のように劇中で3段階(6~17歳)に成長していくので、そういうちょっとした映像、街の喧騒から聴こえてくる音楽、そして主人公たちが聴いている音楽、テレビから聞こえてくるニュースや名前... ちょっとした物が全て90年代。何より90年代だったのが、ラッキー(ウィル・キャットレット)という男性キャラ。髪形から顔だちまで、超90年代。この90年代で時が止まった男性をどこで見つけてきたのだ! という感じ位に90年代。この映画の素晴らしい所は、見た目とか雰囲気が90年代というだけでなく、その時代に蔓延っていた社会的問題点を肌で感じさせるように炙り出しているところ。なのであの肌で感じた90年代が生々しく甦る。だからエンディングで私たちはつい胸が抉られてしまうのだ。確実にこの家族に心奪われる。

(5点満点)
A Thousand and One / 日本未公開 (2023)