SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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Burning Cane / 日本未公開 (2019) 1729本目

絶望の底に見えるもの。とんでもない19歳が現れた『Burning Cane』

あなたは17歳のころ、何をしていましたか?何を考えていましたか?私が17歳だったころ... 遥か遠い過去のこと過ぎで記憶が無いけれど、映画の脚本を書こう!とペンを握った記憶がない事だけは確か。いや、そう思ったとしても、実際には書く実力や、書けるという自信や、書いてやろうという勇気すら無かったというのが真実。ところが、この作品の脚本家であり監督のフィリップ・ユーマンズには、その勇気も自信も実力もあった。2000年というミレニアム生まれのユーマンズは、17歳の時にこの脚本を執筆し、そして今現在19歳でこの映画を発表している。とんでもない人である。いや、過去には全く同じとんでもない人がいた。『Straight Out of Brooklyn / ストレート・アウト・オブ・ブルックリン (1991)』のマティ・リッチだ。彼も、17歳でその脚本を書き、19歳の時に映画を発表している。そういう人達の作品は鮮明に記憶に残る。今回も恐らく...というか、確実に私の記憶に鮮明に残るであろう。ロバート・デ・ニーロのトライベッカ映画祭にて上映され、作品賞などを受賞。その際、本作を大変気に入った映画監督エヴァ・デュヴァネイが、自身の配給会社「Array」が配給権を獲得し、アメリカではNetflix配信されている。

ヘレン(カレン・カイア・リヴァース)は、愛犬ジョジョについて回想していた。ジョジョは、毛包虫症という皮膚病を患い、ヘレンはジョジョの為に色々と試してみたが、どれも結果は出なかったことを。一方、ヘレンの息子ダニエル(ドミニーク・マックレラン)は仕事がなく、お酒を浴びるように飲みながら、家で息子ジェレマイア(ブレリン・ケリー)と時間を潰していた。そして街の教会の牧師(ウェンデル・ピアース)もまた、広大な畑に囲まれた真っすぐの2車線を酒気帯び運転で蛇行を繰り返し運転していた。

と、起承転結が無さそうなプロットだ。ルイジアナ州ニューオリンズの郊外の人口少ない小さな街で暮らすこの3人を淡々と追っている。何というか、『Killer of Sheep / 日本未公開 (1977)』のようでもある。LAを舞台に淡々と男の生きる姿を描いた作品。物語がないようで、ちゃんとしっかりとしたその男の物語が描かれた作品は、私の生涯ナンバーワンの映画に今でも君臨している。3人の物語が描かれていないようで、しっかりと描かれている。そしてどことなく、私が知るアメリカの小さな田舎町を思い出した。夫の故郷がこんな感じなのだ。空虚な感じ。小さな町ゆえ、住民全員がお互いを知っているからこそ感じる、私みたいな異物が混ざった時の違和感。でも閉鎖的とも違う、上手く説明出来ないけれど、「無」な感じ。吸った者にしか分からない「無」な空気感。あの感じをすごくスクリーンから感じる。それをスクリーンで感じさせるのは、熟練されたプロでも中々出来ることではない。まるでウィリアム・フォークナーの小説のように、南部特有の土の匂いを感じる。そして多くの映画批評家が口をそろえて「まるでテレンス・マリックの映画のようだ」と言っている。19歳の監督を称賛する言葉としてこれ以上のものはない。でも私が最も驚かされたことは、それではない。聖書を引用しつつ、絶望を描いたことだ。あのエンディングはどうにでも取れる。でも、どう解釈しても、やはり絶望だけが残る。17歳にして、このような救いのないエンディングを書けたのは驚きである。このままではいけないのだ。

このままではいけないことを17歳という未来を担う人はちゃんと知っている。しかもそれを書ける人が現れた。それが希望。フィリップ・ユーマンズは、我々の希望なのだ。

(5点満点:1729本目)
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Black and Blue / 日本未公開 (2019) 1728本目

見た目で物事を判断してはいけない『Black and Blue』

Moonlight / ムーンライト (2016)』のジャンキーなママ、ダニエル・クレイグ主演『007』のマネーペニー... イギリス出身のナオミ・ハリスは、今やイギリスだけじゃなくて、アメリカでも大活躍中だ。その証拠に、この作品で主役の座を手にした。男性とのW主演ではなく、単独で黒人女優が主役の映画が、全米ワイドで劇場公開されるなんてごく稀なこと。今年だったら、『Harriet / 日本未公開 (2019)』くらいかな?『Us / アス (2019)』もルピタ・ニョンゴの単独主演でいいのかな?単館・配信とかなら、もうちょっとあるかも。まあ、それくらい珍しい。共演は、『Baby Boy / サウスセントラルLA (2001)』のタイリースと、『Luke Cage / Marvel ルーク・ケイジ (2016-2018)』のマイク・コルターなど。監督は、『Traffik / セックス・トラフィック 悪夢の週末 (2018)』のディオン・テイラー。

ニューオリンズ市警の新人警官として任務についた元陸軍人のアリシアナオミ・ハリス)。パートナーになったジェニングス(リード・スコット)とともに、早速街のパトロールに出かけた。マイロ(タイリース)が働くコンビニ店の店先で一般人とイザコザになったが、何とか回避。911により、ジェニングスと現場に向かったが、新人なのでパトカーに置いていかれた。中々戻らないジェニングスの様子を見に廃墟に向かった。そこでアリシアは、見てはいけないものを見てしまう。そしてその一部始終をアリシアのボディカメラが収めていた。警察の防弾チョッキが身を守ってくれたが、アリシアは執拗に追われ、駆け込んだマイロのお店でかくまってもらうが...

正直... 正直に書きます。ディオン・テイラー監督だし、予告編見た時には、「ああ...」と思っていました。つまり、スルーでいいかなーと。でも、スルーしないで良かった!割と面白い。思っていた以上に面白い。何ていうか、『Training Day / トレーニング デイ (2001)』ぽいなーと。あそこまで渋くはなく、もうちょっと軽めだけど、状況が似ている。『トレーニング デイ』でイーサン・ホークが演じた役が、今回ナオミ・ハリスが演じた役と同じなんだけど。私が一番気に入ったところは、ナオミ・ハリスのクールさ。こういう女性が主役のアクション映画って、やたらと女性を英雄にしてカッコ良く見せようとするけれど、この映画でのナオミ・ハリスは自然なカッコ良さなんだよね。いや、この映画の英雄には変わりないんだけど、無理していない感じが、凄く気に入った。マッチョイズムとは違う、カッコ良さがナオミ・ハリスにはあったね。眼差しの強さとか、姿勢の良さとか。巻き込まれたタイリースの役も良かった。最後は、アメリカ映画ぽくなくて、キュンとした!あれくらいが逆に良いんだよね。マイク・コルターのリック・ロス(ラッパーの方)ぽさが、これまた良い演出。

タイトルの『Black and Blue』。黒人であり、警官である。警官によって殺されてしまう黒人が多い今、黒人であり警官である主人公はどうするのか?確かに、この映画ではそこに深く踏み込み描いている訳ではないけれど、良いエンディングだったと思う。主人公だけでは変えられないっていうのが描かれている。

すっごい名作!って訳ではないけれど、意外とこういう作品こそ心から楽しんでしまうもの。こういう作品でのカッコいいナオミ・ハリスをまた観たい!そう思わせてくれた。

(3.75点:1728本目)
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Undercover Brother 2 / 日本未公開 (2019) 1727本目

Not Solid『Undercover Brother 2』

Undercover Brother / アンダーカバー・ブラザー (2002)』、好きだった。ジェームズ・ブラウンブーツィー・コリンズやビリー・ディ・ウィリアムスという本当にカッコいい人たちを引っ張りだして、パロディを本格的に仕上げたことも上手さの一つだった。なんといっても、後に『12 Years a Slave / それでも夜は明ける (2013)』にてアカデミー脚色賞を受賞したジョン・リドリーが、エッジのきいたコメディの世界観を創り出している。その続編。前作ではコメディアンのエディ・グリフィンが主役のアンダーカバー・ブラザーを演じていたが、今回はアクションスターのマイケル・ジェイ・ホワイト。監督もマルコム・D・リーから、レスリー・スモールに変更となっている。ちなみに前作から引き続き出演している人は居ない。

2003年、前作で描かれた任務を終えて、アンダーカバー・ブラザー(マイケル・ジェイ・ホワイト)は、フッドに戻ってきた。そこで、アンダーカバー・ブラザーは弟のライオネル(ヴィンス・スワン)が、犬のトリマーになっていたことを知る。ライオネルは、アンダーカバー・ブラザーのように「ブ・ラ・ザ・-・フ・ッ・ド」でシークレットエージェントになることを夢見て、トレーニングするが上手くいかず兄に一蹴される。アンダーカバー・ブラザーが任務で乗り込んだところで包囲され、アンダーカバー・ブラザーは絶体絶命の危機に陥るが、ライオネルが踏み込んできて... それから16年が経ち2019年に...

ってね、意外とちゃんと『アンダーカバー・ブラザー』なんですよ。プロットにはまだ出てきていませんが、ザ・マンとその息子も登場します。まあでも、DVDのジャケとかから想像するにチープな感じするでしょ?そのチープさは拭いされていない。私ですら、この映画に出た人で知っているのは、マイケル・ジェイ・ホワイトとアフィオン・クロケットとゲイリー・オーウェンスくらいですもの。あ、でも監督と脚本家の1人は知っております。監督のレスリー・スモールは、スタンダップコメディライブの監督で有名。スタンダップコメディライブだったら、レスリー・スモールかスタン・レイサンですね。『アンダーカバー・ブラザー』絡みで書けば、エディ・グリフィンの『Eddie Griffin : Freedom of Speech / 日本未公開 (2008)』もレスリー・スモール。でもこういう長編作品の監督のイメージはない。そして脚本家の1人、イアン・エドワーズはスタンダップコメディアン。何度か見たことある。セリフとかは、今回もアンダーカバー・ブラザーぽい。フッドで人気だったクラブが、コーヒーショップになってしまっているのは、何となく前作の設定を引きずっていて面白かった。ライオネルも、今風になっていて面白い。でも、ピリっとするような風刺とか時事とか無かった。そしてぇーーーーーーーーー、マイケル・ジェイ・ホワイトが主役ならば、『Black Dynamite / 日本未公開 (2009)』の続編が観たかった。こちらはアクションも少な目だし、ネタバレになるのでプロットには書かなかったけれど、マイケル・ジェイ・ホワイトにその設定はあり得ない!っていうくらい、勿体ない使い方をしている。マイケル・ジェイ・ホワイトの個性殺してしまった。というか、やっぱりマイケル・ジェイ・ホワイト知名度あるからギャラ高かったんだろうね。ライオネル役で話を動かしたいという魂胆が見えてしまった。前作の車のシーンのようなのが無いんだよね。あの「Give Up The Funk」を聴きながらキャデラックを運転していて、飛び出してきた車を避けようとドリフト繰り返し、片手で持っている着色料たっぷりのオレンジソーダをこぼさないあのシーン。で、決め台詞に「Ain't no thing」ですよ。ああいう最高のシーンがこの映画には無い。

主役も監督も制作者も全て変えた続編。だったら普通にマイケル・ジェイ・ホワイトのアクションが観たかった!と、思うのは私だけじゃないと思う。ない訳じゃないんだけど、物足りない。マイケル・ジェイ・ホワイト映画としても、アンダーカバー・ブラザー映画としても...

(3点:1727本目)
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Harriet / 日本未公開 (2019) 1726本目

水の中を歩いて渡るモーゼ、ハリエット・タブマン物語『Harriet』

ハリエット・タブマン、いずれはアメリカの20ドル紙幣になるかもしれない歴史的な人物。その女性は、奴隷状態の人々を率いて約束の地まで連れていったモーゼと同じ状況でだったので、「モーゼ」と人々から呼ばれるようになった。この映画を観ると改めて思う。ハリエット・タブマンこそ、アメリカ20ドル紙幣に相応しいと。監督は、『Eve's Bayou / プレイヤー/死の祈り (1997)』や『Talk to Me / 日本未公開 (2007)』のカシー・レモンズ。私の大好きな監督の1人で、過小評価されている監督の1人だと思っている。ちなみにレモンズは女優でもあり、スパイク・リーの『School Daze / スクール・デイズ (1988)』に出ていたり、『Fear of a Black Hat / 日本未公開 (1994)』では大きな役だったり、あとは『羊たちの沈黙』などにも出ているベテラン女優です。今回、主役のハリエット・タブマンを演じたのが『Widows / ロスト・マネー 偽りの報酬 (2018)』に出演していたイギリス出身のシンシア・エリヴォ。

朝靄の中、ハリエット・タブマン(シンシア・エリヴォ)は地べたに寝転がって回想していた。妹たちは、別の家に売られ、離ればなれになった日の事を... 奴隷ではなく自由人ジョン・タブマン(ザッカリー・モモー)と結婚したハリエットたちの元に生まれてくる子供は、自由人と約束して欲しいとマスターに願いを言うが、ハリエットとその母親が奴隷なので、奴隷になると言われる。そのことを言われたハリエットは1人で泣くが、マスターの息子ギデオン・ブローデス(ジョー・アルウィン)に涙を拭われそうになったのを拒み、そして頬を叩かれる。そして、マスターが亡くなり、借金の多いブローデス家は、ハリエットを売り出す予定だと噂が立つ。その噂を聞いたハリエットは、ジョンや家族に別れを告げ、北に向かって走った...

この映画を観る前に予習として、買いぱなしで読んでいなかったアン・ペトリー著の「Harriet Tubman: Conductor on the Underground Railroad」を読みました。これがドンピシャだった。大体、この本の通りに話が進む。そしてこの本がとても読みやすく、そして面白い!アン・ペトリーって児童文学も執筆するので、変に難しい言葉を使わず、とても伝わりやすい言葉で書いてくれる天才。私が好きなタイプの作家でした。もっと色々と伝記を書いてもらいたかった!という訳で、映画に話を戻すと、この映画もドンピシャ!冒頭から、カシー・レモンズの才気煥発。『プレイヤー/死の祈り』でも見せたように、南部独特の土の匂いを感じさせる絵面なんです。緑に囲まれた広い大地からは、清々しい空気が感じられる筈なのに、何か妖しい淀んだ雰囲気を身にまとっている南部の空気。あれを凄く感じるんですよね。そして、ハリエット役のシンシア・エリヴォもドンピシャ!ルックスから声から体格から動きから演技力から、もうハリエット・タブマンを演じる為に生まれてきたとしか思えないほどにピッタリ。この上ない配役。唯一、演出し過ぎたかな?というのが、ハリエットと夫のジョン・タブマンの仲。アン・ペトリーの本ではもっと切ない&辛い。でもその辛さが余計にハリエットが奴隷たちの解放の手伝いに突き進めることになるので、あの切なさと辛さは必要だったかと...

ハリエット・タブマンで大事な部分って、もちろん奴隷たちを北部やカナダに逃がす「地下鉄道」の活躍だと思うんだけれど、それともう一つ、軍人だったというのも大事。時代が時代なので、女性のハリエットが正式な軍人だった訳ではないけれど、彼女は軍を率いて道を導いたり、彼女のフットワークとネットワークを生かして軍スパイみたいなこともしていた。今だったら確実に上官として働いていただろうし、色んなメダルを貰っていたことでしょう。

そしてアン・ペトリーの本を読みながら私が調べたことは、南北戦争の年。南北戦争は、1861-1865年。南北戦争は、ハリエットが(誕生年が1822年だとして)39-43歳の頃に起きている。ハリエット自身が逃亡したのが27歳の時なので、南北戦争が始まる12年前。南北戦争が始まる前の混乱とかも伝わる映画。

南部の黒人教会で、人々が歌う生の「Wade in the Water(水の中を歩く)」を聞いて、御世辞にも上手いとは思えなかったけれど、何かこみ上げるものを感じたことがある。彼らのかすれた声に、彼らの長い歴史の哀傷を感じた。「自由になりたい」と、愛する者とも別れなくてはならなかった時代。それでもハリエット・タブマンは、道なき道、そして水の中さえ歩いて、自分の手と足で道を開いた。あの時私が聞いた「Wade in the Water」は、ハリエットの哀傷も含まれていたから、何かこみ上げてきたのかもしれない... と、ふと思った。自由とは?その意味をかみしめる。

(4.5点:1726本目)
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Farming / 日本未公開 (2018) 1725本目

俳優アドウェール・アキノエ=アグバエはなぜスキンヘッドになったのか?『Farming』

俳優アドウェール・アキノエ=アグバエの監督デビュー作!トロント映画祭でワールドプレミアしてから気になっておりました。なんでも、アキノエ=アグバエの自伝的な作品とのことで、それがなんと白人至上主義なスキンヘッドのリーダーになってしまうという物語らしい。そんな人生をアキノエ=アグバエが歩んでいたとも知らず、とても興味を持ってしまったのです。第一、なぜアキノエ=アグバエがスキンヘッドのリーダーになってしまったのか?その過程がとても知りたいと思った。正直、盲目の黒人老人がクー・クラックス・クラン(白人史上主義)のメンバーになってしまうという、デイヴ・シャペルのコントが頭をよぎる。

1960-1980年代の間、多くのナイジェリアの子供たちが親元を離れ、イギリスに住む労働階級の家庭に里親として育てられる「ファーミング(Farming)」というシステムがあった。エニも妹と共に、カーペンター家に預けられていた。8歳になったエニは、養母(ケイト・ベッキンセイル)に「私のお気に入りになりたいでしょ?」と言われ、店でネックレスを万引きしようとして捕まってしまう。事なきこと得たが、エニは家でも学校でも居場所がなかった。そんな時、両親(アドウェール・アキノエ=アグバエ&ジェネヴィーヴ・ナジ)が迎えに来て、ナイジェリアに戻った。しかし、言葉や慣習にも慣れず、トラブルを起こして、エニだけカーペンター家に戻った。高校生になったエニ(ダムソン・イドリス)は、相変わらず居場所がなく、近くでたむろっていたスキンヘッドたちにもイジメられて、その場を止めようとしてくれた唯一親身になってくれる先生(ググ・ンバータ=ロー)に対しても「黒人クソ野郎」と呼んでしまう...

まず、タイトルとなった「ファーミング」について知れたのが良かった。あまりイギリスの歴史に明るくないので、知らないことを知れるのは楽しい。イギリスには移民が多いことは知っていたけれど、子供たちだけが里親制度で出されていたことは知らなかった。アキノエ=アグバエの場合は、両親ともにイギリスで勉強に勤しんでいたのもあって、そのシステムが使われた。環境も国も全然違うけれど、オバマ前大統領を思い出した。オバマの両親も勉強が忙しくて、祖父母に育てられていたよね。オバマの場合は血の繋がった家族だから良かったけれど、アキノエ=アグバエは違った。養父母は凄い悪い人たちではないけれど、凄い良い人たちって訳でもなく、実母なら愛情ある育て方したんだろうけど、結局はお金目的みたいなところもあって、愛情には欠けていた。それが、アキノエ=アグバエのアイデンティティ崩壊に繋がってしまった。母国ナイジェリアでの疎外感も辛かったのもある。それによってグレてしまった。アキノエ=アグバエがスキンヘッドに入ってしまったのは、日本で言うところの暴走族に入ってしまったというのに似ている。居場所が欲しかった。そこは絶対に居場所じゃない筈なのに。イギリスの小さな街では、黒人だけの不良グループっていうのは存在していないのかもしれない。彼らスキンヘッドの喧嘩相手は、隣町のスキンヘッドだったり、航海で立ち寄ったんだか、それとも基地が近くになるのか海軍の黒人水兵たちだった。

そこまでしていた男が、どのようにして世界的な俳優にまで上り詰めたのか?この映画では、それが駆け足で描かれているが、相当の努力をした筈である。こんな風に脚本を書き、監督まで担当している。そして、その脚本、感動的な言葉や名文句があるわけじゃない。驚くほどに殆どが罵り言葉だ。それでも人生って変えられる。人からの名言だけが人生を変える訳じゃない。自分次第。なるほど、実際そうかもね、と、思った。

(4.5点:1725本目)
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Brian Banks / 日本未公開 (2019) 1724本目

知って欲しい、そして話を聞いて欲しい不屈の男『ブライアン・バンクス

ブライアン・バンクスのことは、ずいぶん前から知っていて、ニュースで聞くたびに気を揉んでいた。もう最近では日常化し過ぎている気がする、冤罪により刑務所暮らしをした人の物語だ。その手の話の映画化も非常に多い。最近では、エヴァ・デュヴァネイ監督の『When They See Us / ボクらを見る目 (2019)』が成功したばかり。以前にそのような映画をまとめているので、こちらでどうぞ。その多くの中でも、特にブライアン・バンクスのことは気になっていた。私が好きなアメリカンフットボールの有望な選手だったこともあると思う。それでも、この映画で初めて知った事実が沢山あった。主演は、『Straight Outta Compton / ストレイト・アウタ・コンプトン (2015)』ではMCレン役だったオルディス・ホッジ。監督は、『The Nutty Professor / ナッティ・プロフェッサー/クランプ教授の場合 (1996)』のトム・シャドヤック。LA映画祭でワールドプレミアとなり、人気の為チケットが取れず、急きょ上映回数を増やしたほど。

ブライアン・バンクス(オルディス・ホッジ)は、カリフォルニアのロングビーチの高校でアメリカンフットボール選手として頭角を現していた。当時の地元の強豪大学USCの有名ヘッドコーチ(現NFLシアトル・シーホークスHC)のピート・キャロルから奨学金の打診もされている程だった。しかし、現在のブライアンは、法改訂で足にはGPSがつけられ、学校や公園に近寄ることができなかった。遡ること高校時代、学校で女子生徒に誘われてイチャイチャしていたが、途中で止めた。そのことが気にくわなかった相手の女子生徒が「ブライアンにレイプされた」と告白され、ブライアンは逮捕されてしまう。司法取引で罪を認めれば、刑期はなく保護観察だけで済むと言われ、未成年にも関わらず10分で司法取引をするかどうかの決断を迫れてしまう。ブライアンは5年の刑期を終えて出所するが、刑罰により職が見つからず苦労していた。そんな時、ブルックスグレッグ・キニア)のカリフォルニア・イノセント・プロジェクトを知り、連絡を取るが...

私はずっとブライアンが刑期を遂行している途中で無罪を証明して、出所したのものだとばかり思っていたのです。5年の刑期を終わらせてから、無実を証明したのは知りませんでした。それにしても、アメリカという国は法律が守ってくれるのではなく、法律が人々を苦しめる恐ろしい国だなって、こういう映画を観る度に思ってしまう。弁護士も色々とあり過ぎる。ブルックスみたいな人もいれば、最初の弁護士みたいなダメな人もいる。その人たちに人生左右させられてしまう。もちろん、使えない検察も含めて。司法取引って本当に怖い。無実ならば絶対に司法取引をしない方が良い。でも、悪質な弁護士は仕事しない検察に上手く言いくるめられて司法取引を薦める。「もし有罪になったら終身刑だよ。絶対に無実だって証明できるの?」とかいう脅しを使って。私は上でリンクしている冤罪映画を死ぬほど見てきたので知っている。司法取引は絶対にダメ!麻薬と同じくらいダメ!でもね、観てきたからこそ知っている。司法取引に応じてしまうことも。アメリカの裁判の場合、『ボクらを見る目』の時のように検事側がでっち上げて有罪になってしまう時もあるので、司法取引が逃げ道になることもある。そして親身で良い弁護士はお金が掛かる。カリフォルニア・イノセント・プロジェクトみたいなところもある。でも、ブライアンみたいに「有望な選手だった」とか、そういう色がないと恐らく取り合ってもらえないんだ。アメリカというか、そういうのは全世界一緒だと思う。社会の恐ろしさ。

ブライアンを演じたオルディス・ホッジが良い。凄い選手ぽい体だし、頑張ってーとつい応援したくなる表情をみせてくれたりする。目が真っすぐで良いです。あ、モーガン・フリーマンが出ています。出演しているのを知らなかったので、すごくビックリした。この映画でのモーガン・フリーマンは、ディスカバリーチャンネルの時のモーガン・フリーマンみたいです。

何が自分を救うのか?やはり知識だと、この映画で思う。ヘイビアスコーパスなんていう法律や、司法取引のこと、駄目な女の見分け方、味方につける人の見分け方、などなど、人生は豊富な知識が必要なのだ。そんな知識を養うためにも見て貰いたい作品。不屈のブライアン・バンクス、知って欲しい。

(3.75点:1724本目)
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Dolemite Is My Name / ルディ・レイ・ムーア (2019) 1723本目

ドールマイト』&ルディ・レイ・ムーアをより魅力的にした自伝映画の最高級品『ルディ・レイ・ムーア

やりよった。エディ・マーフィはやりよった!元々やる男だとは思ってた。特に『Dreamgirls / ドリームガールズ (2006)』で見せた演技力からずっと期待していた。やっぱり面白さは本物。第一、ルディ・レイ・ムーアで泣くとは思わなかった。ラストがビックリするほど最高で、完璧です!ルディへの尊敬と愛を物凄く感じる。自伝映画で示すべき姿と姿勢です。なので、アカデミー賞はもうエディ・マーフィで良いと思う。コメディでああいう演技するのって凄いこと。歴代のアカデミー賞受賞者にやって欲しいねー。絶対に出来ないから!

とは言え、映画秘宝1月号とCinemoreにて(あとツイッターでもチョイチョイ)、この作品についてかなり出し切ったので、そちらで読んで頂けると幸いでございます!(ぺこり)

映画秘宝 2020年 01 月号 [雑誌]

映画秘宝 2020年 01 月号 [雑誌]

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(5点満点:1723本目7)
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