SOUL * BLACK MOVIE * ブラックムービー

ブラックムービー、ブラックスプロイテーションなどについて


*10/15/2018に「ブラックムービー ガイド」本が発売になりました!よろしくお願いします。(10/15/18)

*『サンクスギビング』のパンフレットにコラムを寄稿。(12/29/23)
*『コカイン・ベア』のプレスシート&コメント&パンフレットに寄稿。 (09/27/23)
*ブルース&ソウル・レコーズ No.173 ティナ・ターナー特集にて、映画『TINA ティナ』について寄稿。 (08/25/23)
*『インスペクション ここで生きる』へのコメントを寄稿。(8/01/23)
*ミュージック・マガジン1月号にて、『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』のレビューを寄稿。(12/2/22)
*12月2日放送bayfm「MUSIC GARAGE:ROOM101」にて『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』についてトーク。(12/2/22)
*10月7日より上映『バビロン』にコメントを寄稿。(10/6/22)
*奈緒さん&風間俊介さん出演の舞台『恭しき娼婦』のパンフレットに寄稿。(6/4/22)
*TOCANA配給『KKKをぶっ飛ばせ!』のパンフレットに寄稿。(4/22/22)
*スターチャンネルEX『スモール・アックス』オフィシャルサイトに解説を寄稿。(3/29/22)
*映画秘宝 5月号にて、連載(終)&最後のサイテー映画2022を寄稿。(3/21/22)
*「This is Charles Burnett チャールズ・バーネット セレクション vol.1」にコメントを寄稿。(3/19/22)
*キネマ旬報 3月上旬号の『ドリームプラン』特集にて、ウィル・スミスについてのコラムを寄稿。(2/19/22)
*映画秘宝 4月号にて、連載&オールタイムベストテン映画を寄稿。(2/21/22)
*映画秘宝 3月号にて、ベスト10に参加。(1/21/22)
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Joy / ジョイ: 闇と光の間で (2018) 1699本目

人生は自分のものと知らない女性たち『ジョイ: 闇と光の間で』

生まれた時からついてない人生。自分ではそう思っていたけれど、それでもたまに私は恵まれていただけじゃないか?と思ったりも思ったりする。この映画を観た後は、私は平凡で普通な良い人生に恵まれた、と思った。今回の作品の舞台はオーストリアだが、主人公はナイジェリア人女性。ナイジェリア人女性がオーストリアの夜の街で売春婦として生活している話だ。監督は、2014年ベルリン国際映画祭にて『マコンド』が上映されたスダベ・モルテザイ。イラン人の両親の元ドイツ生まれでアメリカのUCLAで映画を学んだ女性。Netflixにて配信。

儀式を受けている女性ジョイ(Anwulika Alphonsus)が居た。Jujuという儀式らしい。そしてジョイは夜になると派手な金髪ストレートのウィッグを付けて、町中に立つ。妹分プレシャス(Mariam Sanusi)は、あどけなさが残っており、まだ素のまま。立つことも忘れ、座り込むばかりで客は全くつなかい。そんな様子を見つつジョイは客を手際よく取っていく。夜明けを迎え、ジョイとプレシャスは家路につく。マダム(Angela Ekeleme)と呼ばれるボスの元締めに売り上げ金を確認させられる。プレシャスの売り上げを確認し、マダムは手下の男たちに指示を出して乱暴させた。ジョイは、プレシャスの面倒をみてちゃんと稼がせるからとマダムに止めるよう懇願する。そして一方でジョイは、彼女たちのような移民売春婦の保護を目的とする団体に話しをマダムに内緒で聞いてもらっていたが...

お金、国籍、性... それらが搾取されてしまう人たちが、この映画の主人公。この映画はそんな人たちを淡々と追っている。しかもテンポも悪い。冒頭の儀式のシーンもやたらと長い。何気ない会話やシーンも長い。場面が間延びすればするほど、主人公ジョイの感覚が麻痺しているのを観客も感じてしまう。こんな人生を送っているジョイにとって、恐らく死ぬほど長く感じる筈だと。しかもこの映画は容赦ない。希望なんて見えない。抑圧された女性が抑圧されたまま、いやきっと抑圧されていることも知らずに結末を迎えたようだ。幾ら生活のためといえ、娘・姉・妹という家族に売春をやらせるなんて、とんでもない馬鹿野郎なのに、そんな事を主人公は気づけない。ハリウッド映画ならば、ジョイはヒーローとしてプレシャスを救い、そしてジョイ自身もそれによって自分を解放するだろう。でもそうではない。そして人にとって国籍とは何なのか?恵まれた国の人にとっては夢のようなパスポートを手にいれたようなものだが、そうじゃない国の人々にとっては足枷のようなものになってしまう。私たちにとってパスポートとは、海外で観光やビジネス旅行のためのもの。でもそうじゃない人たちも沢山いる。そういうことも気づかせてくれる。

家族の為にとジョイは我慢してきた。でもそれは全然家族の為ではなかった。自分の為に人生を生きていくことを知らない女性たちがこの映画にはいて、とても苦しく辛い。

(4点:1699本目)
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When They See Us / ボクらを見る目 (2019) 1698本目

映画が変えた5人の人生『ボクらを見る目』

視覚によるインパクトとは効果絶大だなーと、この映画が配信が開始になって、改めて思った。この映画は実際に80年代にニューヨークで起きた「セントラルパーク・ジョガー事件」を元にドラマ化された作品だ。強姦・暴行されたその事件の容疑者として身柄を確保されたのが14-17歳の黒人・ヒスパニックの5人。ユーセフ・サラームとコリー・ワイズの2人以外はお互いの面識すらない。自白すればすぐに帰れると強要され撮られた自白テープなど、その他のずさんな捜査などが重なって、無実の5人が立件され、刑務所・少年刑務所に入れられた。そんな物語をドラマ化させたのは、『Selma / グローリー/明日への行進 (2014)』や『13th / 13th −憲法修正第13条− (2016)』などで注目を集めるエヴァ・デュヴァネイ監督。『13th』がアカデミー賞のドキュメンタリー作品賞にノミネートされて以降、彼女の作品や発言は益々注目を集めるようになっている。この作品は特にそんな彼女のパワーを感じ得ずにはいられない。この作品が人を動かし、この事件で責任を取っていない人々が、今窮地に立たされている。

1989年4月19年、ニューヨークのマンハッタンにあるセントラルパークに、少年たちが30人近く集まっていた。当時流行っていた「ワイルディング(Wilding)」をするためだ。当時流行っていた曲名から取られたその行為は、つまりは暴力行為だった。トロン(カリール・ハリス)は、父(マイケル・K・ウィリアムス)と野球の話で盛り上がっていた。ケヴィン(アサンテ・ブラック)は、姉アンジー(カイリー・バンバリー)と話して別れた。日が暮れる頃、レイモンド(マーキス・ロドリゲス)は友人とストリートでたむろっていた所、少年たちが続々と集まっているのを見かけ、そこに向かった。コリー(ジャレール・ジェローム)は、彼女(ストーム・リード)とファストフード店で食べていたところ、友人ユーセフ(イーサン・ヘリッセ)に誘われ、2人は出て行ってしまった。そして、彼ら5人はセントラルパークにいた。その後、パトカーの音で少年たちは一目散に逃げたが、ケヴィンがその場で取り押さえられた。他にも捕まえられていが、5人が立件されてしまい、ニューヨーク検事エリザベス・レデラー(ヴェラ・ファーミガ)とリンダ・フェアステイン(フェリシティ・ハフマン)が証拠集めをしていくが...

この作品はエヴァ・デュヴァネイ監督の采配が光る。事件当時の少年たちは特に可愛い子たちを配役している。観客の気持ちをより引き出す為に効果的だ。あの子たちが、大人に怒鳴られ殴られるのを見るだけで居た堪れなくなる。そしてずさんな捜査をした警察と検察官の描き方も上手い。特に検察官女性2人の描き方が辛辣だ。根拠のない正義感と立場を利用した2人と徹底的に描いているので、余計に観客の感情を煽る。そして5人の親の立ち場の描き方もそれぞれ違っていて興味深い。元々制作段階から、トランプのことを徹底的に叩くとは思っていた。「あの悪魔は」と台詞で批判する。実際にそうだった訳なので。それら視覚的にも観客に訴えたお陰で、この映画は観客を動かした。映画を観た人たちが、当時の警察や検事たちに「間違っている」と声を上げた。特に、検事リンダ・フェアステインへの批判が集まっている。彼女は検事を辞め、その後小説家として順風満帆の生活をしていたが、まず観客からは彼女の本の販売停止を訴える声が上がった。そして、とある団体の役職についていたが、それを辞任させられ、最近では著作関係のエージェント会社が契約を無効にした。その後はもちろんエリザベス・レデラーへの批判の声も上がっている。

映画がそこまで変えてしまったのだ。前にこの事件を追ったドキュメンタリー映画The Central Park Five / 日本未公開 (2012)』もそうだった。ドキュメンタリー映画の随分前に5人のうちの3人がニューヨーク市を相手取り訴えたが却下。しかし、映画後の2014年に新しい市長が、5人と破格の価格の和解金で和解した。ドキュメンタリー映画は5人に雪辱を果たす事と自由を、この映画は公正と当然の報いを与えているようだ。映画そのものがスーパーマンになれることもあるんだってこの事件を扱った2本の映画で知った。

(4.75点:1698本目)
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追悼ポール・ベンジャミン

追悼ポール・ベンジャミン


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名俳優ポール・ベンジャミンが他界したというのを彼が出演していた『The Five Heartbeats / ファイブ・ハートビーツ (1991)』のロバート・タウンゼント監督のツイートで知った。

でもたまに、有名人で仲が良くても、フェイクニュースを掴まされて誤報ツイートする場合もあるので、大手メディアが報じるまでは日本語の追悼文を控えた。嘘を拡散しない為に。その後、『Do the Right Thing / ドゥ・ザ・ライト・シング (1989)』で一緒だったスパイク・リーもインスタグラムでその訃報を伝えたけれど、やっぱり大手メディアが報じるまで待った。家族の意向などもある場合があると思ったので。
www.instagram.com

毎日大手メディアを監視していたけれど、一向にそのニュースは報じられなかったので、やっぱり誤報だと思うことにした。4日たったころにIMBDが死亡日がアップデートされていたけれど、IMDBは報告すれば追加するだけで、調べていないと思ったので、やっぱり無視。でも....

variety.com
people.com

報じられてしまった。とはいえ、どれもスパイク・リーがそう報じていると、スパイク・リー頼りの記事ばかり。大手メディアだから、ちゃんと個別で調べて欲しい。そのためのマスコミなのだから。こんな無礼なことはない。

私がこんなに憤慨しているのは、ポール・ベンジャミンが大好きだからだ。好きな俳優のトップ10に入るほどだ。『Across 110th Street / 110番街交差点 (1972)』は、ポール・ベンジャミンの映画だ!あのラストがあるからこそ、私はこの映画が大好きだ。ポール・ベンジャミンが演じた役の状況や心境を、主役で制作総指揮も務めた名優アンソニー・クインが汲み取ってくれたからこそ、あのようにポール・ベンジャミンが生かされ、そして輝いた。それからずっとこの俳優に釘づけである。70年代の名青春映画『The Education of Sonny Carson / 番長ブルースUSA (1974)』では、主人公のパパ役でこれまた最後が泣ける。号泣です。伝説のミュージシャン、ハディ・レッドベリーを描いた『Leadbelly / 日本未公開 (1976)』での父親役も最高でした。監督がなんと『Shaft / 黒いジャガー (1971)』のゴードン・パークス。最近では、ビル・デューク監督でフォレスト・ウィッテカー主演の『Deacons for Defense / 日本未公開 (2003)』での演技も渋いんです。この映画でオシー・デイビスとも共演していて、いぶし銀演技の対決が凄く見どころあります。その他、パム・グリアと共演した珍しく悪役の『Friday Foster / 女記者フライデー/謎の暗殺計画 (1975)』やスパイク・リー制作の『Drop Squad / ドロップ・スクワッド (1994)』やジョン・シングルトン監督作『Rosewood / ローズウッド (1997)』やローレンス・フィッシュバーン主演『Hoodlum / 奴らに深き眠りを (1997)』など沢山の作品に出演。

何と言いますか、黒人家庭には父親不在なんていうレッテルが張られておりますが、ポール・ベンジャミンは最高の父親役俳優でした。不器用で上手く愛情表現できない父親を演じることもあったけれど、ちゃんと存在するし、不器用なだけで、父親の愛はちゃんとあるんだと映画で思わせてくれた。

本当に本当に本当に大好きな役者さんでした。今まで素敵な作品とキャラクターをありがとうございました。何度感動させられたか分かりません。安らかに。

『ボクらを見る目』と共に観て欲しい作品集

『ボクらを見る目』と共に観て欲しい作品集

先日Netflixにて配信された『When They See Us / ボクらを見る目 (2019)』を観た人たちは色々と衝撃を受けたらしく、大きな反響を受けている。「これが事実だなんて酷すぎで、観るのが辛かった」…この意見が多かった。正直、私はそこまで『ボクらを見る目』で衝撃を受けなかった。誤解しないで欲しい。この映画で描かれたセントラルパーク・ジョガー事件は本当に酷い事件で、被害者の女性、そして冤罪の5人が受けた仕打ちは恐ろしく残虐だ。私は、この手の映画を観過ぎているため、感覚が麻痺しているので、衝撃を受けなかっただけで、この話は何度聞いても腸が煮えくり返る。同じ事件がドキュメンタリー映画となった『The Central Park Five / 日本未公開 (2012)』を観た時のいたたまれない感情を忘れることが出来ない。そして私の感覚が麻痺している理由は、そういう事件や冤罪がアメリカでは数多く横行していて、そして映画化されることが多いのだ。だから『ボクらを見る目』を観て辛かった人たちに、もっと観て知って欲しい映画がある。

まずは、何はともあれこのドキュメンタリー映画だろう。ドキュメンタリー映画の鬼才ケン・バーンズ監督作品。私は当時書いたレビューで「ケン・バーンズのような注目を集めている監督が扱うだけでも、価値がある。この事件が多くの人に認識される事になる」と書いたが、実際にそのようになった。この映画の後、冤罪だった5人はニューヨーク市を相手取り裁判を起こし、約41ミリオンドルで和解した。この裁判でも、ケン・バーンズは精力的に協力している。

私が衝撃を受けた作品の一つ。このドキュメンタリーでは、セントラルパーク・ジョガー事件と同じく80年代に起きた事件で、ノースカロライナ州で白人女性がレイプされた事件を追っている。容疑者として捕まったダリル・ハントという若者を追っている。この事件も、身体的証拠が無いのに、クー・クラックス・クランの男の証言だけで、ダリル・ハントは捕まり有罪となった。この作品で、地元の政治家が言った「差別は真実よりも強い」。私はこの言葉が忘れられない。そしてここで取り上げる事件全てに通じる言葉になるだろう。

『ボクらを見る目』の4話目で、コリー・ワイズが独房に入れられた時に思い出したのがこの作品だ。この事件を当時から良く知るジェイ・Zが全面的に協力して制作した意欲作。『ボクらを見る目』同様にミニシリーズとして、6話ある。タイトルにあるカリーフ・ブラウダーはNYのブロンクス出身。16歳の時にカバンが盗難品だと思われ、そのまま逮捕。以前に別件で逮捕されていたこともあり、保釈金が釣り上げられて、無実なのに、そのまま悪名高いライカーズ刑務所に。そこで小柄はブラウダーは暴力の被害に遭い、独房に入れられる。と、ここまでコリー・ワイズと同じ状況なんです。同じ刑務所で同じく独房。そして独房に長い間入れられると脳に異常を及ぼすことが分かっている。その結果、ブラウダーはPTSDで苦しむことになる。そして、悲劇が訪れる... これは、ジェイ・Z渾身の作品です。日本ではNetflixで観られるので長いですが是非!

これも『ボクらを見る目』と同じく80年代のNYで起きた事件で、NY検事のいい加減さと司法制度に憎悪を感じる作品。全く知らない男の殺人の容疑で捕まり、何と21年も刑務所暮らしした男の物語。もちろん冤罪です。主人公の友人が必死に戦ったので、21年で出れた。もし友人が居なかったら、今も刑務所かもしれない。何度でも書きますが冤罪です!これはドラマ化されており、主人公を『Selma / グローリー/明日への行進 (2014)』やTVシリーズAtlanta / アトランタ (2016-Present)』のラキース・スタンフィールド。サンダンス映画祭で観客賞を受賞。

こちらはちょっと今までとは趣が違う。80年代ではなく90年代初頭、でもやはりNY検事の甘さが垣間見られる作品なのです。そしてこちらは冤罪ではなく、殺人事件の被害者側からNY検事の横暴さが見える作品なのです。監督ヤンス・フォードの兄は当時兄がトラブルとなっていた男に殺された。しかし正当防衛が認められ、兄を殺した犯人は無実となった。映画監督となったヤンス・フォードはその事件を徹底的にドキュメンタリー映画として追っている作品です。アカデミー賞ドキュメンタリー作品賞にもノミネートされた作品で、今ならNetflixで観れる筈。

こちらは、1931年に起きた事件。もう90年近く前になる時に起きた事件だが色褪せない。列車で人種間のイザコザが起きて、女性による虚位の発言により、9人の少年たちが問答無用で逮捕され投獄された。しかも場所は差別意識がとても強い南部のアラバマ州。まだ公民権運動が始まるウンと前の頃だ。彼らは輸送された場所から「スコッツボロ・ボーイズ」と呼ばれるようになった。私はこれを見た時、とても辛くて、かなりひきづったのを覚えている。気になって色々勉強して余計に心が重くなった。今も昔も変わらないことをこの映画が教えてくれた。こちらもアカデミー賞ドキュメンタリー作品賞にもノミネートしている。

  • 冤罪の人々が主役のドラマ映画

To Kill a Mockingbird / アラバマ物語 (1962)
The Hurricane / ザ・ハリケーン (1999)
Life / エディ&マーティンの逃走人生 (1999)
A Lesson Before Dying / ジェファーソン/冤罪の死刑囚 (1999)
If Beale Street Could Talk / ビール・ストリートの恋人たち (2018)
ザ・ハリケーン』以外は文学作品やオリジナル脚本で、フィクションですが、参考までに。もうちょっとあるかもですが、今思い出せるのはこの作品。

  • なぜ起こるのか?

Slavery by Another Name / 日本未公開 (2012)
13th / 13th −憲法修正第13条− (2016)
一番大事なのは、なぜにしてこんな事が起きてしまうのか?なのです。それは『The Trials of Darryl Hunt』にて政治家が放った「差別は真実よりも強い」の一言に尽きるのですが、挙げた2作を観ると他の角度からもその答えが見えてくると思います。アイス・キューブがラップしたっけ...In the penitentiary, a billion dollar industry...I believe that, homey I believe that...

と、これだけの作品を見てしまうと、さすがに感覚が麻痺してしまうのです。そしてそれでも今この瞬間にも起きている冤罪事件... なぜ変わらぬのか?

*1

*1:今日の写真、ユーセフ・サラームだけ映ってません。ごめんなさい。これが映画とリンクしていて一番いい感じの写真だったもので...

Wanda Sykes: Not Normal / ワンダ・サイクスのどうかしてる! (2019) 1697本目

ワンダーウーマンが語る今『ワンダ・サイクスのどうかしてる!』

一番好きなコメディアンは?と訊かれるとちょっと困る。私のアイドル的存在なデイモン・ウェイアンズを選ぶべきか、それとも神リチャード・プライヤーと答えるべきか... レッド・フォックスも好きだし、その質問だけは本当に困る。でも一番好きなコメディアンヌは?と訊かれたら、「ワンダ・サイクス!」と即答出来る。でも、女性のコメディアンという枠だけには納まっていない人でもある。先ほどの「一番好きなコメディアン」という枠でも、彼女やデイモンやプライヤーやレッド・フォックスと共に悩むレベル。彼女の場合、女性だったので女性コメディアンという枠ではダントツトップで好きなので即答できるので良かった!というタイプ。私はその位、ワンダ・サイクスが好きだ。女性コメディアン、即ちコメディアンヌスタンダップコメディを聞いてお腹を抱えて笑ったのは、ワンダ・サイクス、マムズ・マーブリー、レスリー・ジョーンズの3人。

今回は、Netflixスペシャル。ニューヨークの劇場で、ワンダ・サイクスはトランプのことや、普段の生活を語っていく。

冒頭から凄かった。私は冒頭の彼女が放った3センテンスで釘づけになった。最後に「again(また)」という単語をつけた上手さは筆舌に尽くし難い程。こんなトランプ下ろしを聞いたことない。そして次々に出てくるトランプ批判。どれも皮肉がきいていて、破壊力が凄まじかった。彼女の場合、動き、トーン、言葉選び、どれを取っても破壊力がある。エアフォースワンにトイレットペーパーを付けて...の話は、情けない滑稽な姿が容易に創造出来る語り口。とことんバカにする。最高だ。でも今回は、冒頭からのトランプ批判以降がちょっと弱かったかな?トランプの部分が強烈過ぎで、他がちょっとだけ霞んだかもしれない。

日本語訳で出てくるか私は分からないけれど、ワンダは自分の脂肪のことを「エスター(Esther)」と呼んでいると言っていた。最後のクレジットでは、脚本・パフォーマンスはちゃんとワンダ・サイクス&エスター・ロールになってます。笑った。ちなみにエスター・ロールは、アメリカでは有名な女優Esther Rolle (エスター・ロール)のパロディ。最後の「e」はわざと欠けているんだと思う。日本ではエスター・ローレになっているみたいですが、ロールです。

女性・男性と分けたくはない。同じ舞台に立っている以上、分ける必要もないと思う。ワンダ・サイクスは同性愛者としてオープンにしている。そしてワンダはそれを自然に話す。当然のように「マイ・ワイフ(私の奥さん)」という。彼女にとって当たり前のことなので自然なのだ。だから自然に耳に入ってくる。そして更年期障害のことも話す。女性だし、男性だし、人間だし、それ以上にワンダ・サイクス。今回はそれをより感じた。最初にお腹を抱えて笑ったコメディアンヌ3人の名前を挙げた。この3人にいつもそれを感じる。女性とか男性とか人間とか... そういう枠じゃなくて、彼女たち自身の個性。彼女たちじゃないと語れない面白さというのを強烈に感じるのだ。

(4.5点:1697本目)
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See You Yesterday / シー・ユー・イエスタデイ (2019) 1696本目

描かなくてもハッキリと見える物『シー・ユー・イエスタディ』

前にも書きましたが、「これ観て欲しいんです!」と言われると嬉しい。信用されているみたいで。Twitterのフォロワーさんに「是非見てください!」と言われて見ました!ありがとうございました。『黒いジャガー』シリーズに溺れていたので、ちょっとだけ時間取ってしまって申し訳ないです。でもその後すぐに見ましたよ。ツイッターに書こうかと思いましたが、敢えて書きませんでした。薦めて頂いて、本当に良かったです!なので、これからも沢山のリクエストお待ちしております。そしてこの作品の監督は、長編映画デビュー作となるステフォン・ブリストルキング牧師スパイク・リーが卒業した名門モアハウス大学を卒業。通っている時にスパイクがやってきて、その時に懇願してスパイクのインターンとなった。そのスパイク先生がまたもや生徒のお手伝いでプロデュースした作品です!

C.J.(エデン・ダンカン=スミス)は、高校生ながらタイムマシーンの実験をしていた。親友のセバスチャン(ダンテ・クリッチロウ)が助手。しかし上手くいかず、学校で科学の先生(マイケル・J・フォックス)にアドバイスを求めた。帰る途中、コンビニで元彼ジャレッド(レイショーン・リチャードソン)とイザコザになったC.J.。近くに居た兄カルヴィン(ブライアン・“アストロ”・ブラッドリー)が助けてくれたが、ジャレッドとカルヴィンにしこりが残った。そして、その夜、ニュースでは誰かが警官に殺されたニュースが流れていた。ようやくC.J.のタイムマシーンのテストが成功した。ジャレッドと揉めた時に戻っていた。C.J.は、ジャレッドに飲み物を投げつけた。その結果、ジャレッドは交通事故に遭ってしまい、そして兄が... C.J,とセバスチャンは過去を変える為、またタイムマシーンで戻るが、今度は...

見た後の余韻が半端なかった。恐らく、きっちりとした結末を見せていないからだ。その演出ゆえ、評価も分かれているらしい。が、私はこのラストが凄く好きだ。C.J.はタイムマシーンが作れてしまうほど頭脳明晰。でも、負けん気が強いのも事実だし、お転婆な所もあるし、何よりまだ高校生の子供だ。あのマイケル・J・フォックスが出ているのも上手い。私も『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を見て興奮した世代である。ハッピーエンドで終わっておとぎ話のようでワクワクした。でも、過去を書き直す…そんなことはしちゃいけないのだ。同じタイムトラベルでも、『バック・トゥ』がおとぎ話ならば、こちらは非現実的ながら現実的。無実の人々が警官の偏見により銃で亡くなる。あってはならない事が起きてしまう。彼らの日常と化してしまっている。過去はどうしたって変わらない。いずれ悲劇は起きる。そんなことをまだ高校生のC.J.も理解しつつある。とは言え、『バック・トゥ』のような話を信じたい人たちもいる筈。研究って、「無い」って断言してしまったらそこで終わってしまう。あるかもしれない可能性はどこか残しておいて欲しい。だからこそ、人によって何通りもの解釈が出来るあのラストがこの映画にとって最適だと感じた。

C.J.の性格から、彼女は何度でも過去に戻るだろうと私は解釈した。自分がその悲劇の犠牲になっても、彼女はまたあの路地を走り続けるだろう... タイムマシーンを作った者が背負う十字架みたいなものと共に。こんなに切なくなるタイムトラベル映画を私は知らない。そして、いつか無実の人々が警官に殺されるということが無くなることが、C.J.にとって唯一救われる時である。ラストをどう解釈してもそのメッセージは変わらない。

(4.75点:1696本目)
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Shaft / シャフト (2019) 1700本目

今なぜまた『シャフト』なのか?をじっくり考える

この映画が公開前に、私は『Shaft / 黒いジャガー (1971)』から順にTVシリーズShaft / 黒いジャガー (1973-1974)』まで含めて時間を掛けてじっくりと再見した。新しい『シャフト』の前に、それをやったことは実に有意義だった。色々な事がクリアに見えたから。まず、この2019年版『シャフト』制作ニュースを聞いて、「なぜ今に?」と思った。確かに、『SuperFly / 日本未公開 (2018)』もリメイクされたりして、ブラックスプロイテーション映画の波は再び来ているのかもしれない。でもリメイク/リブート制作されると言われていた『Foxy Brown / フォクシー・ブラウン (1974)』や『Get Christie Love! / 女刑事クリスティー (1974-1975)』などは続報なくて、恐らく暗礁したんじゃないかと思う。第一、正真正銘のヒーロー『Black Panther / ブラックパンサー (2018)』があんなに成功したんだから、もうブラックスプロイテーションはいいじゃないか...と、私は思っていた。だからこそ、ジョン・シャフトとは何者で、どうして生まれ、どう愛されたのか... じっくりと再見して理解しようとした。それが分かれば、今なぜシャフトなのか、分かる気がした。

1989年、ジョン・シャフト(サミュエル・L・ジャクソン)はマヤ(レジーナ・ホール)と激しい口論を繰り返していた。車外の異変にシャフトが気付くと、シャフトの車目がけて夥しい数の銃弾が撃ち込まれた。シャフトは反撃して、彼らをやっつけた。車の後部座席には赤ちゃんが乗っていた。その後、マヤは赤ちゃんと共にシャフトの元を離れた。そして時は流れ、現在。NYのFBIにて働くJJ(ジェシー・アッシャー)。FBIで働いてはいるが、エージェントではなく、データアナリスト。捜査を受け持ちたいが、まだ新人で受け持たせてもらえない。JJは、どことなく頼りなく、銃も嫌いだ。久々に学生時代の友人カリーム(アヴァン・ジョーギア)とサーシャ(アレクサンドリア・シップ)と会ったが、カリームはどこか変だった。そしてカリームは... 異変に気付いていたJJは、「ジョン・シャフト探偵事務所」に向かった。

オブラートに包んで書くのは良くないので、率直に書こう。見た後は正直、複雑な感情が渦巻いた。英語ではこんな感じの映画を「Mixed bag」なんていう良い方をする。良い感情と悪い感情が混ざった状態。まさに、それだ。正直、普通に面白かった。今ぽい面白い軽快な会話や音楽と共に心地よいテンポで進んでいくエンタテイメント性優れたアクション映画。実際に、劇場内も大きな笑いに包まれることが多かった。私も思わず笑った場面もある。でもこれが『シャフト』なのかと訊かれたら、私は目を逸らしてしまうだろう。ジョン・シングルトン監督の2000年版『Shaft / シャフト (2000)』はれっきとしたジョン・シャフトだった。いや、ジョン・シャフトII映画だった。オリジナルを越えられないと分かっていたからこそ、敢えてジョン・シャフトII映画を作り、そして時代を紡いだ名作だった。2000年に『シャフト』を作るならば、あれが一番最適で正解だったのだ。2000年版ジョン・シャフトは、サミュエル・L・ジャクソンの個性を大事にしながらも、どこかオリジナルのジョン・シャフトに寄せた美学と哲学が見えた。冒頭で悪党(クリスチャン・ベール)を2発殴ったシーンでそれを感じた。でも、2019年版ジョン・シャフトIIは、悪いブラックスプロイテーション映画のヒーローそのものだった。腕力の強さだけがパワーの象徴で、言葉遣いも以前よりも悪く威張っていて大袈裟だ。それが、JJという新しい世代を際立たせるためだったとしても、どこか違和感を感じた。2000年版と2019年版はキャラ変していると言っても過言ではないだろう。そして、2000年版で私が書いた良い部分が、見事に... 2000年版の私のレビューを読んで2019年版を見て頂ければ、なぜに私がこのような感情になっているのか容易に分かって貰える事と思う。これが『シャフト』というタイトルを使用しない、新作アクションコメディ映画だったら、ティム・ストーリー監督の『Ride Along / ライド・アロング ~相棒見習い~ (2014)』系の映画だと思って、そこそこ面白いと私は褒めていたことだろう。

最近としては珍しく、久々にニューヨークのハーレムが舞台になっている。セリフでも「110番通り」が出てきたり、ハーレムで長いこと歴史を見つめてきた「アムステルダム・ニュース」の事務所の上にジョン・シャフト探偵事務所を構え、愛読していたりするが、そんなにハーレムの個性を感じなかった。如何にも部外者が一生懸命ハーレムを詰め込みましたという感じを受けた。『黒いジャガー』では、そこまでハーレムらしさを意識して作られていないけれど、それでも若者たちや風景やロケーションに生々しいハーレムの息づかいを感じた。

それでも確かにJJという役に今を感じた。ジョン・シャフトIIは馬鹿にしていたけれど、JJのスマートで脅威を感じさせない気を使った服装とか、頭でちゃんと行動するタイプとかに今の若い世代をとても感じる。恋愛にも奥手で慎重なタイプ。でも実は...っていう所が余計に今の20代ぽい。でも、それだけでは2000年版のように時代の変化を描いているようには思えなかった。ジョン・シャフトIIをキャラ変してまで「家族愛」を安易に描き、そして笑いを取りつつ、結局は昔の「シャフト」と価値観の方が良いと見せられているようだった。そこまでして描きたい今の『シャフト』がこれなのか?20年後、これが2019年だったのだと思えるのか... 私は未だ複雑な感情が拭い去れないでいる。

(3点:1700本目)
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